第27回日本熱傷学会東北地方会 学術集会
会長 野田頭達也
八戸市立市民病院 救命救急センター所長
第27回熱傷学会東北地方会を会長として担当致しますことは,小職ならびに八戸市立市民病院にとりまして,誠に名誉なことであります.当院としましては,2003年に小坂和弘先生が第9回熱傷学会東北地方会を八戸市で開催されており,小職が19年ぶりに担当致すことになりました。さて、新型コロナウイルス感染症の流行により、本学会も多大な影響を受け、これまでのように現地で一堂に会しての開催が困難となりました。昨年度は、岩手医科大学櫻庭 実先生のご尽力により、web開催を行うことができ、本学会を継続することができ会員一同安堵していることと思います。最近の熱傷診療は、最新の研究、新たな知見、治療材料やデバイスの開発、培養表皮移植の普及、手術、集中治療、リハビリテーションの進歩などにより、大きく変貌しています。熱傷診療ガイドラインの公開により、治療が標準化されるとともに、これまで救命困難な超重症例でのexpert らの救命事例の増加によりさらなる進歩を遂げています。このようなことから、本学会では、「東北地方の重症熱傷の救命と再建」と題してシンポジウムを開催させていただきます。是非、活発な討論、情報交換の場にしていただければと思います。新型コロナウイルス感染症第7波が収束したこの時期に八戸で参加者が一同に顔を合わせられるのも嬉しい限りです。院内の施設を利用した小規模の学会ではありますが、スタッフ一同精一杯準備させていただきました。本学会会員ならびに熱傷診療に興味を有する多くの方々に有意義な機会となりますことを切に希望致しております.多数の皆様のご参加を心よりお待ち申し上げます.
2022年10月吉日
八戸市立市民病院
院長 今明秀
ようこそ八戸市立市民病院へ
学会では熱傷治療の醍醐味を伝えます。
「84%熱傷に挑戦」
ドクターヘリ要請が入った。珍しく下北半島のむつ市の病院からの転院搬送だ。昨夜入院した重症な熱傷。主治医の話では90%の三度。尿が出ていない。人工呼吸中。血圧も低下と。朝になりいくつかの病院に転院を断られ主治医は途方に暮れた。ダメ元で、八戸救命救急センターに電話してきたのだった。八戸ERの医師が電話を受けた「いいですよ」。主治医はビックリした。「ドクターヘリで迎えに行きますよ」。さらに、びっくり。
その日のヘリ番は私。5分後には、離陸した。八戸市立市民病院救命救急センターでは、重症熱傷治療は救急医が行う。全身管理と手術とリハビリ。過去の最高記録は80%三度熱傷の救命だった。死亡率が高い80%三度熱傷の救命のカギは、自分の皮膚を培養して、植える。わずかに残っている皮膚からだけでは。植皮が足りない。そこで、皮膚を培養する。
むつ市の病院から依頼を受けた患者は重症だった。無尿、ショック、90%三度。私は「救命無理かな?」と思った。着陸後に家族と話をした「何とか助けてください」。希望のドクターヘリは、重症患者を、主治医から受け取り、素早く離陸した。
八戸ERでは、救急医師たちが迎えてくれた。土曜のERの混雑の中で、ER2ベッドに患者は入室した。野田頭所長がすぐに呼ばれた。透析治療を開始する。正常な皮膚がない。熱傷部分から、透析用のカテーテルを進める。気管挿管チューブを集中治療用のカフ上吸引付きに変える。大量輸液を続ける。熱傷の三度で硬くなっているところを、野田頭所長は電気メスで減張切開した。しかしその凄惨な状況に誰もが救命をあきらめかけた。
翌日、
娘さんが泣いて懇願した。「助けてください」。われわれは、一度あきらめかけた治療だった。しかし全力を尽くす方針を野田頭所長は宣言した。。皮膚培養の会社と連絡をとる。救命するには、皮膚培養だ。前回の80%三度熱傷は、皮膚培養を使った手術を3度行った。今回は、それ以上になる。救命成功すればできればリハビリを含めて1年近くかけての治療になる。劇的救命チームは、今回も重症熱傷に挑む。詳細に熱傷面積を計算した。86%だった。
3週間後、植皮手術の日。手術には名人技が必要だ。手術は朝から始まった。野田頭副所長他医師8名が参加する。私も。手術室は8番ルーム。末広がりで縁起がいい。室温を34度のバリ島並みにして、患者の体温低下を防ぐ。5時間の手術はうまくいった。私は手術後に、むつ市の病院の元主治医に電話報告した。「先ほど、一回目の植皮手術を終えました。血圧、尿量、呼吸、意識、すべて良好です。ただし、感染が心配です」「えっつ、生きているんですか。それだけでも、感動です」「頑張っていますよ。重症患者は得意ですから。いつでも受けますよ。ICU30床、救命病棟100床ありますから」
手術を終えた救急医たちは昼食もとらずに、それぞれ自分の受け持ち患者の回診に散っていった。
そして患者は生還した。
劇的救命!